この節の前後の節へ移動したい場合は下記のリンクから移動できます。
1. はじめに
新エネルギーとは、従来の化石燃料や原子力などとは異なったエネルギー源の総称であり、その利用方法としてバイオマス利用、太陽熱利用、クリーンエネルギー自動車、風力発電、太陽光発電、燃料電池などが挙げられる。以下に石油産業と関連の深い新エネルギーとして、バイオ燃料と水素・燃料電池について解説する。
2. バイオ燃料
バイオ燃料は動植物を起源とした燃料であり、原料となる動植物は、その成長過程において空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収しているため、これを燃料として用いても空気中のCO2は増加しないとのロジックが成り立つ(※)。これをカーボンニュートラルルールと言う。京都議定書においてはカーボンニュートラルルールにより、バイオ燃料を使用して発生したCO2は温室効果ガスとして計上しないことになっている。※実際は、植物の栽培、バイオ燃料の製造時にCO2が発生する。
ここでは自動車用バイオ燃料であるバイオエタノールとバイオディーゼル燃料について述べる。
バイオエタノール
(1)バイオエタノールの生産と貿易
バイオエタノールはサトウキビやテンサイから抽出された糖類や、小麦、トウモロコシのような穀類など様々な作物から作ることができ、バイオエタノールを生産している国では、それぞれの風土に適した作物から製造している。
表1-6-5に示すように、バイオエタノールの国別生産量では従来、ブラジルが圧倒的に多かったが、現在では米国が最大の生産国となっている。各生産国では、その生産量の大半が国内で消費されており、貿易量は比較的少ない。
- 表 1-6-5 バイオエタノールの生産量(2009年)
-
国名 生産量(万KL) 米国 4,141 ブラジル 2,611 欧州 360 中国 215 カナダ 109 その他 267 合計 7,703 - U.S.Energy Information Administration(EIA)資料より
(2)バイオエタノールの利用方法
バイオエタノールの利用については、ブラジルや米国などのように直接ガソリンに混合する方法と日本や欧州諸国などのようにETBE(Ethyl Tertiary Butyl Ether)に転換して混合する方法がある。さらにガソリンに添加せず、そのまま用いる方法もある。
バイオエタノールは自動車部品を劣化させるおそれがあるほか、これを直接ガソリンに混合した場合、蒸気圧を上昇させ、また水が混入すると相分離を起こして、ガソリンの性状を変化させるというエタノール特有の問題がある。そこで、エタノールを混合するガソリンは、蒸気圧の低いガソリン(サブオクタンガソリン)を使用しなければならない。さらに水の混入を防ぐためなるべく消費者に近い所でガソリンとエタノールの混合を行うなどの対応が必要である。また、水の混入を嫌うことからパイプライン輸送ができないという問題もある。ブラジルや米国などバイオエタノール直接混合の歴史の古い国では、そのための特別な設備が既に完備されている状況である。
一方、ETBEを用いた場合にはバイオエタノール直接混合のような問題は発生しないため、欧州のように近年になってバイオエタノールの使用を開始した国々では、流通における問題、品質の確保および蒸発ガスの問題の観点からETBEを選択している。
バイオディーゼル燃料
(1)バイオディーゼル燃料の生産
バイオディーゼル燃料はナタネ油、大豆油、パーム油などの油脂類をメタノールでエステル交換することにより粘度を低下させたものであり、軽油に混合して使用される。主成分は脂肪酸メチルエステル(Fatty Acid Methyl Ester:FAME)であり、この製造過程ではグリセリンが副生される。
(2)第二世代バイオディーゼル燃料の開発
フィンランドのネステオイル社やイタリアのエニ社、米国のUOP社、日本のJX日鉱日石エネルギー社では植物油を高温、高圧の水素によって処理してディーゼル燃料とする方法を開発しており、第二世代バイオディーゼルと呼ばれている。
この方法では、生成物が軽油と同じ炭化水素化合物であるため、従来の軽油とほぼ同じ性状を持つ。また、従来法で必要とされたメタノールが不要となるとともに、グリセリンのような副産物も生成されない。
バイオ燃料導入に向けた世界の動き
バイオ燃料の導入目的は地球温暖化対策だけでなく、世界的には農業振興やエネルギー安全保障の観点から、各国の事情によってバイオ燃料の導入、増量を計画している。表1-6-6に主要国のバイオ燃料導入の現状と目標を示す。
- 表 1-6-6 主要国のバイオ燃料導入の現状と目標(2011年)
-
国名 現状 目標 アメリカ 4,800万KLのバイオ燃料(内、セルロースエタノール 2万KL)導入を義務化 1億3,600万KLのバイオ燃料(内、セルロースエタノール 6,000万KL)導入を義務化(2022年) アルゼンチン E5およびB7を義務化 インド E5を義務化 E20とB20を義務化(2017年) インドネシア E3およびB2.5を義務化 E5、B5(2015年)、E15、B20(2025年)を義務化 欧州連合 バイオ燃料5.75%を目標(現在、加盟国によって数値は異なる) 輸送用燃料の10%を義務化 オーストラリア NSW州でE4とB2を義務化 NSW州でE6(2011年)、B5(2012年)、
QL州でE5(2011年秋)を義務化カナダ E5 (4州でE8.5)を義務化
3州でB2からB3を義務化全国的にB2を義務化(2012年) 韓国 B2を義務化 B2.5(2011年)、B3(2012年)を義務化 タイ B3を義務化 エタノール 3,000KL/D、B5(2011年)
エタノール 9,000KL/D (2017年)を義務化中国 9の地域でE10を義務化 ナイジェリア E10を目標 ノルウェー バイオ燃料3.5%を義務化 バイオ燃料5%(2011年)が提案されているが、欧州連合の目標とあわせる可能性あり フィリピン E5、B2を義務化 B5(2011年)、E10(2012年2月)を義務化 ブラジル E20からE25(割合は政府が決定)、B5を義務化 ベトナム バイオディーゼル 5万KL、バイオエタノール50万KL(2020年)
(義務か目標かは不明)マレーシア B5を義務化 メキシコ グアダラハラ市でE2を義務化 モンテレイ市とメキシコシティでE2を義務化(2012年) ※E○○はエタノールを○○%混合することを、B○○はバイオディーゼルを○○%混合することを示す。ETBEを使用する場合はETBEの製造に用いられたエタノール分がガソリンに含まれる割合でE○○を表現している。
バイオ燃料は石油系燃料よりも一般に製造コストが高くなるので、市場経済に任せていては普及することはない。そのため、各国はさまざまな優遇策を設けて、バイオ燃料の普及に努めている。表1-6-7に欧州におけるバイオ燃料に対する税制優遇例を示す。
- 表 1-6-7 欧州におけるバイオ燃料への税制優遇の例
-
国名 バイオエタノール バイオディーゼル燃料 減税額*1
ユーロ/KL減税額
ユーロ/KLスペイン 370 290 ドイツ 0 0 スウェーデン 331 490 イギリス 200*2 200*2 オーストリア 33 28 注記:*1.ETBEの場合はETBEに含まれるエタノールに対する減免率、減税額
*2.単位はイギリスのみポンド/KL
また、米国においては燃料用エタノール1ガロン(3.7854L)に対して0.45USドルの補助が行われているほか、中西部の州を中心に揮発油税の減免や補助が州単位で行われている。
(以上の税制優遇や支援金額は変動する可能性があるので注意のこと)
各国の政策と利用状況
(1)ブラジル
ブラジルのバイオエタノールは、主に南部のサンパウロ州と北東部諸州で生産されるサトウキビを原料としており、ミルと呼ばれる工場で砂糖とバイオエタノールが併産される。生産されたバイオエタノールは石油会社の油槽所でガソリンに混合もしくは純度95容量%程度の含水エタノールとして市販される。2009年の年間消費量は2,283万KLであった。
ブラジルでは2003年からバイオエタノール入りガソリンと含水エタノールの両方が使えるフレキシブル車が販売されており、2008年には新車販売の87%がフレキシブル車になっている。消費者は給油所でその両方の燃料が購入できる状況となっている。
また、ブラジルは大豆の世界的な大生産地であることからバイオディーゼルについても使用を促進する政策が取られており、2009年の年間消費量は157万KLであった。なお、当初2013年に予定されていたB5の義務化が2010年に前倒しされている。
(2)米国
米国のバイオエタノールはほぼ全量が中西部で栽培されるトウモロコシを原料としており、2009年の年間消費量は4,178万KLで、世界一である。
米国では含酸素燃料として主にMTBE(Methyl Tertiary Butyl Ether)とバイオエタノールが使用されてきたが、MTBEの事実上の使用禁止によってバイオエタノールの使用が増加している。
バイオディーゼルについては、主に大豆油が原料として使用され、2009年の年間消費量は120万KLであった。
2007年にはブッシュ大統領が10年間でガソリンの20%を削減するという政策を発表しており、2009年にはオバマ大統領がグリーンニューディール政策を打ち出していることから、バイオ燃料の消費は今後も増えていくものと思われる。
米国では2007年に成立したエネルギー自立・安全保障法によって、2009年に再生可能燃料基準が改訂され(RFS2)、エタノール、バイオディーゼル等の使用義務量が2022年時点で360億ガロン(1億3600万KL)に引き上げられた。このうち160億ガロンをセルロース系のエタノールでまかなう計画である。
(3)欧州
欧州のバイオエタノールは、主に小麦やテンサイを原料としている。2009年の年間消費量は欧州全体で448万KLであった。
スウェーデンでバイオエタノールが直接ガソリンに混合して使われているが、フランスやスペインではバイオエタノールをETBEに転換して使用している。ドイツではETBEとバイオエタノールの両方が使われている。ETBEは従来のMTBE製造設備を若干の改造を行って製造することができ、欧州の56基のMTBE装置のうち、既に22基がETBE用に改造されている。
バイオディーゼルについては、ナタネ油やヒマワリ油を原料としており、2009年の年間消費量は1,222万KLであった。ブラジルや米国と異なり、バイオエタノールよりバイオディーゼルの消費量のほうが多い地域となっている。
なお、EUはバイオ燃料の使用を促進するために、2003年に加盟国に対してバイオ燃料の使用目標を設定するよう求めている(バイオ燃料指令)。参考目標は2005年までにエネルギー換算で2.00%、2010年までに5.75%とすることを掲げている。
また、2009年に再生可能エネルギー指令が交付され、この中で自動車燃料におけるバイオ燃料の割合を2020年までに10%以上とすることを義務付けている。
(4)日本
日本においては2005年の京都議定書目標達成計画において、原油換算で年間50万KLのバイオ燃料を2010年度までに導入することが閣議決定された。2007年には揮発油等の品質の確保等に関する法律が改訂されて、バイオエタノールやバイオディーゼルの混合許容値が定められ、バイオ燃料を導入する法的な条件が整えられた。
2009年にはエネルギー供給構造高度化法が成立し、この法律によって2017年度に向けてバイオエタノールの導入量(ETBEを使用した場合は、そのエタノール分)は原油換算50万KLまで増加することになっている。
このような動きを受けて、石油業界では2007年度からETBEを混合したガソリンをバイオガソリンという名称で販売を開始し、2010年からは一部のプレミアムガソリンへもETBEの添加が行われている。また、九州や関西地区での販売も開始された。2010年度には原油換算で年間21万KL相当(=バイオエタノールとして約36万KL)のバイオ燃料を導入するという当初の目標を計画どおり達成している。2010年10月10日現在のバイオガソリン販売給油所数は全国で1,720箇所である。
バイオディーゼルについては、日本では主に廃食用油を回収して製造する活動が地方自治体や中小企業等を中心として行われているが、量的にはごくわずかにすぎない。
3. 水素と燃料電池
水素は、様々なエネルギー源から作ることができるため、エネルギー源の多様化という観点や、使用時の排出物が水だけということから環境負荷の低減に役立つこと、さらに水素エネルギーの開発による新規産業・雇用の創出などの利点があることから、世界中で開発が進められている。特に100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発により、水素の活用が現実味を帯びてきたという事情もある。
(1)日本
日本では、2010年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」の中で、「水素エネルギー社会の実現」が2030年に向けた目指すべき姿の一つとして取り上げられている。具体的な取組み内容としては、「定置および自動車燃料電池の普及に向けた最大の課題であるコストの低減に向け、燃料電池の機構解明、白金の使用量削減や水素製造・輸送・貯蔵のための基礎的な部分も含めた技術開発を推進するとともに、必要な導入支援を行う。」とされている。
(2)米国
米国では2003年にブッシュ大統領が一般教書演説で水素燃料イニシアティブを発表した。これは5年間にわたって12億ドルの投資を行って水素研究を加速するもので、「燃料電池車を実験室からショールームへ移す」と宣言した。
- 図 1-6-1 米国の水素エネルギー開発計画

これを受けて米国エネルギー省(DOE)は水素エネルギープログラムを策定し、2015年(一部2017年)までの開発目標を具体的に定めて水素製造方法、水素の輸送・貯蔵、燃料電池、安全性、標準化等の研究を行ってきた。燃料電池については、固体高分子形燃料電池を用いた燃料電池車および定置式燃料電池の開発を行っている。
さらに、DOEのエネルギー効率及び再生可能エネルギー局(EERE)は水素開発計画(Hydrogen Posture Plan)を策定して、米国のエネルギーシステムを水素に移行させるための活動やマイルストーンを定めた。
また、米国では燃料電池車の開発を行うために、カリフォルニア州政府機関と民間企業によって1999年にカリフォルニア燃料電池パートナーシップ(CaFCP)が設立された。
CaFCPは当初、2003年12月に終了の予定であったが、2007年まで延長され、2006年にはさらに2012年まで延長することが決定された。現在、自動車会社、石油会社、燃料電池メーカー、州政府機関および連邦政府機関など30機関が加盟しており、カリフォルニア州内23ヵ所の水素ステーションを利用して燃料電池車の実証試験を行っている。
(3)欧州
欧州委員会は、水素・燃料電池技術プラットフォーム(HFP)の戦略を実施段階に移行させるために、実施委員会(IP)を2006年に設置した。IPの作業部会には100以上の関係機関が参加している。策定されたプログラムは4つの「イノベーションと開発のための活動(IDA)」から構成されており、2020年までの市場化を目標に、マイルストーンを設定して開発が進められている。
- 水素自動車および水素供給ステーション
- 持続可能な水素製造および供給
- 熱電供給および発電のための燃料電池
- 初期市場向け燃料電池
EUが今まで行ってきた水素・燃料電池プロジェクトの例として2001年から実施されたCUTE(Clean Urban Transport for Europe)プロジェクトがある。これは欧州の9都市において公共輸送用の燃料電池バスを27台導入して、水素供給方式や水素ステーションの運用ノウハウを取得するものであった。
この節の前後の節へ移動したい場合は下記のリンクから移動できます。